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「春の探針」/篁釉以子

篁釉以子「春の探針」 ill.あさとえいり アイス文庫

春の探針 (アイス文庫)春の探針 (アイス文庫)
あさと えいり

オークラ出版 2001-09
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お気に入り度 ハート 薄ぴんくハート ちょっと薄ぴんくハート ぴんくハート 濃いぴんく


アイス文庫なんてあったんだ…。
47字×17行で、文庫のくせに中身はノベルズ並み。
読みごたえがあった。量だけではなく、中身も。ショックだったけど。


痛がりで歯医者嫌いの高校生・徹。
頬が腫れて食べるのもつらい虫歯を抱え、町で一軒しかない歯科医にかかることになる。
のっけから徹の一人称で、頭のねじがゆるい徹の言動と思考についていけない。
そんなに歯医者が嫌なら歯磨きしっかりやって虫歯をつくらなきゃいい。
ダメだ、この子。アホだ。
攻めの歯医者・怜(あきら)もなんだかやたらセリフに「?」が多くて、いつも徹をからかって苛める変なやつ。
ちょっとアホアホなテンションにげっそりつつも読みすすめたのは大正解だった。
だとしても、まさか泣かされるとは思わなかった。
こんなに大泣きしたの久しぶり!!


かなり内容もりだくさん。
徹の成長物語だろうか。コメディと思わせて精神的に痛々しい話だった。
不幸な境遇で育ち、自分が心に大きな傷を持っていることにさえ気づけなかった。
怜によって自分を知り、周りを知ることができた。それが表題作。

徹が大学生になった話「鬼子母神の春」では、男同士の恋愛の障害とともに、徹は生きる意味や存在価値に悩む。
怜がどれだけ徹を愛し、優しくあたたかく包み込んでいるのかよくわかる。
また、怜の母親が望む一般的な幸福についても理解できるから、徹が余計つらい。
一度は死を選んだ徹だけれど、それは本当に純粋で真っ直ぐな心の持ち主だから。
これから一緒に幸せな日々を歩んでいくんだと思うと、胸にくるものがある。


以下、駄文。



超がつくほど痛いのが嫌いな徹が行った藪下医院では、いつもの歯科医がいなかった。
藪下医院の主は高齢で、入院している。代わりに孫の向井怜が代用歯科医をしていた。
診察前から涙をこぼす徹をなだめながらゆっくり丁寧に治療していく怜。
あんまり徹がみっともなく泣くので時間外にこさせるが、この怜もおかしい。
二度目の治療から、他に誰もいないことをいいことに、意味深な発言をしては自分で笑っている。
あれよあれよというまに徹は怜に落ちていくのだが、徹は誰かに好きだと言われるのが初めてだったのだ。

徹の父親はろくでなしであった。徹の姉・早紀ができたから仕方なく結婚したけれど、子どもは邪魔だと思っていたらしい。
徹の母親は父親の遊び相手のひとりで、徹を産んで臍の緒の取れる前に父親の家に置いていってしまった。
父親が死んで、徹が餓死寸前のところを出て行った早紀が帰ってきて助け、その後は早紀が水商売で稼いで二人は暮らしていた。

ご飯を作ってくれるけれど、一緒に食べてくることはない早紀。
母親を知らず、早紀以外に家族がいないので、本当に小さいことだけれどあたたかで幸せなことを徹は何一つ知らなかった。

何も知らなかったから、自分が不幸で大きな傷を胸に抱えていることに気付けなかったのを怜に愛され、好きになって一緒に過ごすうちにそれらを知るのだ。
そして、徹だけでなく、早紀もまた寂しく、頑張っているのになかなか報われない苛立ちを抱えていた。
徹は自分だけでなく、他人についても気付くことができる。
からかっていじめつつも、しっかりあたたかく包み込んでくれる怜がいてくれたからだろう。


さて、ここまでは、不幸な境遇の徹が自分と周囲に目を向け、少しだけ成長したという話。
問題はここからである。
知ってしまったが故に悩み苦しむ話だ。


怜は祖父が亡くなったことで藪下医院を閉め、代用歯科医を終えて東京の大学病院で働いていた。
怜の近くにいたいため、徹は東京の大学に進学する。
早紀はマンションを購入し、二人で暮らした家は売ってしまったのだ。

怜は徹が少しずつ成長するのを感じていた。
休みの日に実家に徹を連れて行くと、怜の母親・比沙子は徹を気に入る。
まるで少女のようで、優しく笑う比沙子に徹はおそらく理想の母親を見たのかもしれない。
実母や、父親の女でママと呼ばせていた女性もいたけれど、結局徹は捨てられてばかりだ。

徹は東京で友人の紹介で、キャバクラで子守のアルバイトを始める。
徹は母親に放って置かれる子どもに自分を重ね合わせる。

ある日、徹は比沙子と一緒に買い物に出かける。
そこで比沙子に、怜にお見合いをさせていること、自分も怜も子どもが好きで、玲にたくさん子どもが欲しいことを教えられる。
子どもによって繋がっていく生命の輪。
徹は怜のそばにいることで、怜が幸せになれるのか不安になってしまう。

生きる意味、存在価値が宙に浮いた状態の徹にとって、大きな衝撃だった。
捨てられた子どもである徹に生命の輪といえるのは、父親だけ一緒の早紀だけ。
心から愛してくれたのは怜だけ。

比沙子が望んでいることは、ごく一般的な幸せで、多くの人がそれを自然だと思っていること。
けれど、徹も怜も男であり、怜は一人っ子だから比沙子はとりわけ怜を大事にしている。
不幸な境遇で育った徹と、愛されて育った怜では、環境も考え方も違う。
ちょっとしたずれへの違和感も手伝い、徹の不安は大きくなっていく。

そんな中、怜が見合いをひっきりなしにすすめてくる比沙子に徹と付き合っていることを伝える。
比沙子は怒り、徹に怜と別れるよう迫る。比沙子の反応はおそらく母親の多くが示すものだと思う。
親に反対されても愛を貫こうとするカップルもいるかと思うが、自分の存在価値を見出せない徹には大きなショックだった。

さらに、徹は怜から離れることを決めるが、彼にとっての帰る場所がないことに気付く。
寮は帰る場所とは言いがたいし、姉は新しいマンションに住んでいて、怜にもらった怜のマンションの鍵はもう使えない。
生きる意味がない、怜の幸せのためには邪魔な存在で、帰る場所もない。
怜に図太くすがるなんて考えもない、本当に健気で純粋で、だから思いつめてしまう。
誰かに心から愛されて、幸せになりたいだけだったろうに。

自殺を図った徹に対し、怜の長々とした説得は感動ものだ。
あれだけからかっていじめてる怜の本心がよくわかるし、あまりにまっすぐに向かってくる徹から一度逃げようとしたという気持ちもよくわかる。
それでも徹の全てを受容しようという愛がよくつたわってくる。
だが、徹はそれで納得しないのだ。それが育ってきた環境の違いなのだろう。根本的な考え方の違いがみえる。
愛されて育ってきた人間と愛されず育ってきて、悲しみも寂しさも知らなかった人間の違いだ。
徹の感じていた怜との違和感を怜が理解するには時間が必要なのだろう。
結局、徹は比沙子の言葉に反応したのだが、これは比沙子が“母親”だから。

徹はその後、大学をやめて保父になるために専門学校に通うことに決めた。
なんか大人になったなぁ。
痛みを知る徹だからこそ、子どもたちに向き合える場面がきっとあるに違いない。

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